1990年代を鏡のように表現している写真集『モータードライブ』写真家・平間至の痕跡

ポートレイトという写真は、写される者と写す者を同時に表現する、被写体と写真家の関係のなかで生み落とされる視覚表現である。

その映像は人類が生み出した機械文明(カメラ)も含有された、人間の生々しい生を表現する画として定着され保存されるのだ。

写真というその視覚の痕跡は、その時代を克明に写し出している鏡なのである。



映画では『イージーライダー』(1970年)『パリ・テキサス』(1985年)『ベルリン天使の詩』(1987年)『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1986年)『ミステリー・トレイン』(1989)といったロードムービーが、写真家ではロバート・フランク(1924~2019)やウイリアム・クライン(1928~)、ブルース・ウェーバー(1946~)やエレン・ヴォン・アンワース(1954~)などが1990年代の日本の文化へと影響を与えていた時代なのだ。



多くの俳優、女優、タレントやミュージシャンを撮影する平間至は2020年の現在でも『アサヒカメラ』の表紙、タワーレコードのポスターや雑誌、CDジャケットなど優れた作品を発表している写真家である。

彼が1990年代に『Rockin’on JAPAN』『CUT』『BRIDGE』『ShiNC』『マリ・クレール』『MR.Hi Fashion』などの雑誌やCDジャケット、広告などを中心に撮影された写真たちを編集し構成しなおしているのが、この1995年に出版された『モータードライブ』なのだ、格闘と協調が表現された作品たちはブレやボケの効果も相まって躍動を見る者に想起させる瞬間が描かれている。

時折り激しい鼓動を刻みながら、音楽という人々との中和を促す美しいリズムが全編に流れる写真集は、広告や雑誌、CDジャケットなどの枠を超えた「喜びや怒り、楽しさや悲しさ」といった多様な表情を見せているのだ。同時にその時代に生み出されたファッションやモータードライブというテクノロジーを定着しているのである。



肖像写真は、写される者と写す者を同時に表現し、人類が生み出した機械文明が含まれた、人間の生々しい生を表現する画として保存される。

被写体と写真家が一体となり写された『モータードライブ』は、音楽のような美しいリズムが観られる、その時代の社会が鏡のように投影された写真集なのである。

参考文献:平間至『モータードライブ』光琳社出版株式会社、1995年

鳴り響く、写真家・丸谷嘉長の純粋なメッセージ『Straw dog』(モデル・宮原華音)