鳴り響く、写真家・丸谷嘉長の純粋なメッセージ『Straw dog』(モデル・宮原華音)


「終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため 終わらない歌を歌おう 全てのクズどものために 終わらない歌を歌おう 僕や君や彼らのため 終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように(後略)」・THE BLUE HEARTS アルバム『THE BLUE HEARTS』『終わらない歌』

『Straw dog』(わらの犬)というタイトルの写真作品をみていると、ひとりの写真家の純粋なメッセージが聞こえてくるのだ。

それは、多くのメディアが氾濫する世界のなかで「本当に美しいものは」という問いかけなのである。


写真家・丸谷嘉長の『Straw dog』モデル・宮原華音


日本のダンディズムの流れを汲む、写真家の富永民生氏に師事した丸谷嘉長(1962~)は、

2002年「携帯家族物語シリーズ」 読売広告大賞 銅賞、フジサンケイグループ広告大賞メディアミックス部門、2005年「立山酒造」毎日広告デザイン賞第3部企画賞受賞、2014年 NTT docomo VoLTE「声のチカラ。」第63回日経広告賞などの受賞歴を持ち、多くの一流企業のメインビジュアルや雑誌、写真集などで俳優、女優などを撮影する写真家である。


そんな彼は『Negative Pop』(負な人々)というブラックユーモアを題するサイトで、『Straw dog』(わらの犬)という作品を撮影し発表している。


写真は光があって初めて成り立つ表現である。

光の演出が特徴的な世界を描き出すその作品は、影のコントロールがライティングであることを哲学とする、独自の世界観を視覚表現しているのだ。

カタストロフィーともクライマックスとも受容できる写真に流れている韻律は、どこか観る人の心を引き寄せるのである。


無数の解釈を有している老子の「天地は仁愛をもって万物を動かしているのではなく、わらの犬(芻狗・すくう)のように扱う。」を引用したであろう『Straw dog』(わらの犬)は、その読解を観る者の想像力に問いかけているようでもあるのだ。

この難解なタイトルとは相反する、作品にみられるストレートな彼の視線は紋切り型の見せ方とは違った美少女・宮原華音が、定着されている。

現代のコンピュータテクノロジーやインターネットを思考の土台としている数値化している世界のなかで、人間の生々しい生を捉え絶頂と破滅的な表現を基軸にしたその作品は、一方で日本のアイデンティティ喪失を訴えた「三島由紀夫の精神」と通じるものを感じ、他方で「本当のことは」何であるかを観る者に問いかけているようでもあるのだ。


いつの時代にも虚栄の世界や利害関係だけに囚われて、大切なことは何なのかを問う人々の心は存在する。

『Straw dog』をみていると、写真家・丸谷嘉長の純粋なメッセージが聞こえてくるのだ。

それは、TVや雑誌、インターネットなどの映像メディアの氾濫している社会のなかで「本当に美しいものは」という問いかけであり、叫び声なのである。


参考文献:THE BLUE HEARTS 、アルバム『THE BLUE HEARTS』メルダック、1987年、 森山直人『近現代の芸術史 文学上演篇1 20世紀の文学・舞台芸術』京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、出版局 芸術学舎、2014年、


1990年代を鏡のように表現している写真集『モータードライブ』写真家・平間至の痕跡