現代人の原型、ギリシアの思想(ギリシアの思想)

古代ギリシア人たちは自身達をヘレーネスと呼び、人間にふさわしい生き方である人間の生の基礎としての自由と平等の自覚と、本質を追求する宇宙の秩序の発見、探求の精神の成立を持ち、人類史における理性の出現として世界文明の基礎を据えた現代人の原型となったのである。


ホメロス叙事詩の神々と英雄(ギリシアの思想) ソクラテス、思想の決定的な飛躍(ギリシアの思想)




現代人の原型、ギリシアの思想


紀元前2000年前後、先行するエジプト、メソポタミア文明の後進としてギリシア人が登場する。

前1600年ごろに先進諸文明と質的に同質なミュケーナイ文明が約400年続き前1200年から1100年に消滅、それから約400年間は激しい民族移動時代の暗黒時代が続き、前700年頃からギリシア人は歴史の表舞台に姿を見せはじめ地中海周辺地域に植民を開始した。

新約聖書がギリシア語なのはヘレニズム時代に地中海沿岸地域の世界語だからである。

植民活動は前6世紀頃その歩みを緩めるがヘレニズム時代まで続き、地中海世界を言語的、文化的に一つのギリシア語文化圏として形成した。

アッシリアからメディア、バビロニアと国々が生滅、前520年ペルシア帝国が出現、翌年ダリウス大王が強大な世界の唯一の支配者となるがギリシア人のイオニア植民都市はこれに反抗、さらにギリシア本土からイオニアに援軍を送りアテナイとエレトリアの救援軍はサルディスの都を陥れた、ダリウスは前490年にアテナイとエレトリアに遠征軍を送るが、このギリシア本土への最初の侵攻はアテナイ人により食い止められた。

ダリウスの息子クセルクセスの代となり大軍勢を構成しギリシア世界へ押し寄せた、アテナイとスパルタの統率下のペロポネソス諸都市は抵抗し、それ以外は戦わずクセルクセスの軍門に降ったがテルモビュライ戦からサラミス海戦でギリシア人の逆転勝利となる。

このペルシア戦争の勝利はギリシア人が世界で最良の民族であると信じさせたのだ。

キオス島出身の盲目詩人ホメロス、この固有名は特定の一個人をさすとは限らず前七百年頃に諸伝説を整理編集した人物ではないかと推定され『イリアス』『オデュセイア』の二大叙事詩が、ひとりの詩人によるものか説が分かれている。

この叙事詩の世界は人間と神々の交錯する世界、英雄たちの背後には神々がいて操り糸を引いている。神々が不老不死であるのに対し人間である英雄は生命の有限性を持ち、その偉大さと脆弱さが相互に反照しあう逆説はホメロスからギリシア悲劇へとつづく悲劇的人間観の核となるのである。

アテナイではペルシア戦争勝利、民主化へと前進する文化的興隆が人間の魂の奥底を探求する力となり独自の革新的な作家によるギリシア悲劇を生み出した。アイスキュロス(前525~456)他などの作品三十三篇が残っている。

諸ポリスのひとつのミレトスから始まった哲学は神話的表象とは異なる万物の根源、不滅の究極的実体を追求し、不滅の物体の探求、複雑な現象を単純な実体へと還元する思考、擬人的な神々の介入を排除して現象の運動を非人称的な法則により説明しようとする合理性による哲学の誕生が告げられる。

ヘラクレイトス(前535~475頃)は、同一なるものの永劫回帰を説き、ピタゴラス(前530頃活動)は、数学的世界観と禁欲的宗教思想をパルメニデス(前515頃~450頃)は、真理とは存在の不生不滅、単一不動という後世のヨーロッパの超越論哲学の基本原理となる。デモクリトス(前460頃~370頃)の原子は無目的的な運動として起動因を問題領域から排除した原子論者の意図的な立場と合理的な精神と強い克己心の上機嫌の中心概念を伝える。

紀元前5世紀の後半約60年間アテナイは民主主義体制に至りソフィスト運動の中心となるプロタゴラス(前500頃~430頃)は、現代のプラグマティズムへと連なる生のための知という思想の淵源を示した。


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しかし、この自然学に絶望したソクラテス(前470~399)は、人々との反駁的対話、ロゴスの道による善の探求「善く生きる、正しく生きる」倫理性から「たとえ不正を加えられても、不正の仕返しをしてはならない」というギリシア人の復讐の正義観を超克する、思想の決定的な飛躍と時代の断絶をうみだした。

アテナイ民主政治はソクラテスを死刑に処した。師のこの運命にプラトン(前427~347)は、政治の腐敗は市民各自の精神の浄化でしか癒されないとして、プラトン哲学の中核の三要素からなるイデア論を立て「善イデア」を認識した人こそが哲人王となり統治の任につき国家を指導しうると考えたのである。

プラトンから学んだアリストテレス(前384~322)は、善の追求の認識からはじめ本来的自己は魂とし、幸福とは魂がその優秀性に即して活動すること、魂の活動は生の全体的な活動を包含し最上位に理性活動があり人間としている部分である。

この理性が統御して全体が調和しているとき幸福、有徳なのである。また衝動と理性があるべき点に留めることが中庸であり、あるべき政治体制は共同体の構成員が平等に権力にあずかる体制、デモクラシーとしての中間の国制であり、温和な理性的人格を育てることが国家論の最重要課題であると解答する。


古代ギリシア人は人間にふさわしい生の基礎としての自由と平等の自覚と、本質を追求する宇宙の秩序の発見、探求の精神の成立を持ち人類史における理性の出現として世界文明の基礎を据えた現代人の原型となったのである。


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参考文献、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門 』、岩波ジュニア新書、2003年、