想像力を喚起させる詩学(文芸)


詩や歌、小説、戯曲などの形で書かれる詩的な言葉は日常の言葉とは異質な言葉である。

詩的な言葉は、読者に流れるような映像を喚起させ、物語の中に読者を誘い込み物語の登場人物との同化を可能にさせる。

優れた作者の作品は読者に新たな発見行為を促し、感情などの精神的なことと関わりながら、ものの見方や考え方などの知覚に影響を与え新たな想像力を喚起させ、人類の思想や言語に活力を与える文学表現となるのだ。


言葉は知覚に意味を伝達するものとして日常的に使われる、文学表現の言葉の作者は、この根本的な人間の根幹に位置する言葉という仕組みを通じて言葉から文章というような階層で、想像力の世界に生きることを確認できる文学表現の言葉を選択する。

また隠喩や暗喩、神話の引用などの文章の筋道を使い、読者の想像力につながる通路を開こうとする。読者は内部に発する想像力を働かせ、作品を通して書き手の想像力と共振され、同じ方向付けの動きを起こすのだ。

読み進まれる言葉は作者と読者の共有可能なものとして存在し、作品の文章が読者の想像力を舞台にして生きる間、その書物の作品の生きた言葉は、創造的な想像力の位置にまで高められ、新たな相貌的な知覚を生み出すのである。

作者と読者の相互関係によって生み出されるこの文学表現は、人類の思想と言語を豊かにし活力を与える。さらに人間的心像の直接の生成としての言葉となって人類の共有可能な言葉として世界を創造するのである。


詩的な言葉で表現された文学表現は、読者を物語の中に誘い込み物語の登場人物との同化を可能にさせる。

感情などの精神的なこと、ものの見方や考え方などの知覚に影響を与え、新たな想像力を喚起させ人類の思想と言語を豊かにする。

この作者と読者の相互関係から生み出される物語の淵源にある普遍的な人間の生をつたえる文学表現は、人類の共有可能な言葉となり世界を創造し、人類に活力を与え混迷した社会を恢復する一助となるのである。


参考文献 大江健三郎『新しい文学のために』岩波新書、1988年

大辻都編『ここから始めるリベラルアーツ-知の領域を横断する24冊』、京都造形芸術大学出版局、2017年