救いの観念の深化「苦難の僕」(旧約聖書 ユダヤ教)

 アブラハムを祖とする古代イスラエルの民は、エジプトにおける奴隷脱出のなかで神ヤーヴェへの信仰が成立、信仰でひとつになったイスラエル王国は発展し繁栄する。しかし、大帝国の侵略、南北分裂、捕囚を経て植民地となる。神の言葉を伝える預言者は民族の繁栄期では神の怒りと滅びを説いたが、捕囚時代には、救いの観念についての深化した思想をうみだしたのである。

 紀元前20世紀頃アラビア砂漠からメソポタミア地方に進出したアモリ人がアラム人やイスラエル人の先祖と考えられ、イスラエル人は遊牧民としてパレスチナの沃地へ入った。

 アブラハム「偉大な父」を意味し、神話的な象徴的な人物である。このアブラハムの物語を祖とした古代イスラエルの民は、エジプトの奴隷状態のなかモーセは奴隷の群れを糾合、脱出する。神ヤーヴェから十戒を授かり信仰を確立イスラエル民族となりカナン沃地に定住する。信仰を核とする宗教連合を形成、初代王サウルからダヴィデがエルサレムを首都に定めた後イスラエル王国はソロモン王までが黄金時代となるが、バビロニア他などの大帝国の侵略により南北分裂、バビロン捕囚民となる。その後ローマ帝国植民地となり滅亡する。

 バビロン捕囚期に神と人間を思想的に彫琢しようとした努力が『創世記』である、その神は他者を求め世界を創造し人間も他者を求める者であり「神は愛である」神が人間を呼んだように、人間も人間を呼び、また神を呼ぶため「神の似姿」とされる。

 神の言葉を伝える預言者アモスは信仰の核を倫理へと収斂した思想を示し、ホセアは相手を受容する憐みと神の救いを説いた預言者である、第二イザヤに至っては、捕囚以前の神の怒りと滅びを説いていた預言とは異なり、受動性の極限の姿が神の栄光の表れとなる、受苦そのものが神の栄光の現れとしての報いであるという、深化した思想がうまれているのだ。 

 イスラエル民族の神の言葉を伝える預言者は繁栄期、神の怒りと滅びを説いたが、南ユダ王国が滅亡バビロン捕囚時代の第二イザヤでは、救いの観念についての深化した思想をうみだしたのである。

参考文献、 岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』岩波ジュニア新書、2003年