古代ギリシア思想を収斂したアリストテレス

 古代ギリシア思想は、人間の自由と平等にもとづいて創造された民主主義と理性主義の探求である。この民主政治を土台とした世界の源と人間の生に対する探究の哲学は踏襲と批判を繰り返し、ソクラテス(前470~399)からプラトン(前427~347)へと受け継がれた人間の生としての共同体である国家論へと紡がれる。プラトンに学んだアリストテレス(前384~322)の思索は、この倫理の答えの終点である。

 ヨーロッパ最古の文学作品である、ホメロスの二大叙事詩が発端となるギリシア思想は、多様な世界像に共有可能なアルケーの規定を目指す営みの自然哲学へと展開した。デモクリトス(前460頃~370頃)により「人間にとっての最善の生き方」へと向きかえ、ソフィストたちの登場により深化した思索は、ソクラテスにより「人間とは何か」へと哲学の問いを換える。その哲学はプラトンへと受け継がれ国家論へと紡がれた、プラトンに学んだアリストテレスは彼以前の哲学を統合しヨーロッパ哲学の基礎を据えたのである。

アリストテレスは

「あらゆる人間の営みは善を追求する」という認識から倫理学をはじめ、あらゆる行為の究極目的が最高善(幸福)として、「自己本来のはたらきの発揮が善である」という現代の「自己実現が幸福である」という淵源になる考えを示す。

 本来的自己を魂であるとして「幸福とは魂がその優秀性に即して活動することである」と言い、この「人間の魂の活動」は「人間の生の全体的な活動」を指し最上位の理性活動が全体を総括し調和のとれた状態で己の働きを十全に発揮しているとき、人間は幸福なのであると考える。

 また、理性的な部分こそが人間を人間であるとして、欲望や衝動を「あるべき点」に留めた状態の中庸を調和的な状態として人間の幸福、有徳と言われる状態とまとめる。さらに人間を「共同体(ポリス)的動物」と定義し、理性の所有によって人間が倫理的に自律的な存在であるということを、共同体の生においても同様に妥当するとして。調和のとれた中庸の考えから、あるべき政治体制は共同体すべての構成員が平等に権力にあずかる体制であるデモクラシー「中間の国制」であるとまとめている。

 この中間である理由として、中産階級を国家の主要な勢力にすることが国家安定の経済面での土台となり、多数者が数の力により良識ある少数者の意見を無視したり、少数者が富の力により多数者の声を無視したりすることのない、中庸な体制の育成のため両極端の激情に翻弄されない、温和な理性的な人格を育てることが最重要課題であるとする。この理性主義からなる民主主義としての人間の生の探求が、アリストテレスの最終的な国家論の解答なのである。

 古代ギリシア思想は、人間の自由と平等にもとづいて創造された民主主義と理性主義の探求である。この民主政治を土台とした世界の源と人間の生に対する探究の哲学は踏襲と批判を繰り返し、アリストテレスの思索へと収斂される。この思想哲学は、ヨーロッパ思想の淵源となり、現代の社会に生きる我々の魂へと今この瞬間も問いかけてくるのである。

参考文献、 岩田靖夫著『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書) 2003年