ベッヒャー夫妻の「タイポロジー」(写真論)

 ドイツのベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻(ベルント1931~2007、ヒラ1934~)は、「タイポロジー」といわれる方法で、冷却塔などの工業的建造物を「類型」として主観を排して写した。

この写真作品は、写真と芸術に新たな関係を切り結ぶことになった。





 1960年代、20世紀前半に確立されてきたモダニズム芸術の既成概念を鋭く問いかける芸術の新たな波が起こっていた。

そんな情勢の中でベッヒャー夫妻は、あるひとつの種類の産業建造物のいくつかの写真を格子状に組み合わせ、たがいに関係づけることによって生み出される写真の複合体としての作品「タイポロジー」を生み出した。

自己表現と作為性を抑えたこの写真作品は、写真と芸術の間に新たな関係を創造するのである。

 この作品の評価すべき点は、ミニマリズムとコンセプチュアルアートの精神に共鳴する作品であること、

独自の美学的プロジェクトを写真により推進し独自の芸術表現を創造したこと、

この脱領域的な写真の力により、写真と芸術の間に新たな関係を切り結ぶことになったことである。

 ベッヒャー夫妻の写真作品は、ヴォルタ―・ベンヤミン(1892~1940)による論考『複製技術時代の芸術作品』1936年、において。

写真と芸術のふたつの概念を相関するものとして捉え当時の写真芸術のあり方を批判した

「写真としての芸術」という考え方のひとつの解答になり、現代写真の強力な磁場を醸成することに大きく寄与したといえる。


 ベッヒャー夫妻は「タイポロジー」といわれる方法で、冷却塔などの工業的建造物を「類型」として主観を排して写した。

この写真作品は、「写真」という領域にも、一時の美学的潮流にも取り込まれることのない、

独自の芸術を創造し脱領域的な写真の力によって、写真と芸術の間に新たな関係を切り結ぶことになったのである。


参考文献、

宮本隆司、八角聡仁『写真芸術論』京都造形芸術大学、2003年、 ・情報デザインシリーズ Vol.2 『写真の変容と拡張』京都造形芸術大学、1999年、・飯沢耕太郎、河出ブックス008『写真的思考』2009年、・ジェフリー・バッチェン『写真のアルケオロジー』前川修/佐藤守弘/岩城覚久 訳 青 弓社 2010年