ダゲールとトルボット(芸術理論・写真論)

ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(1787~1851)は、1838年に自らダゲレオタイプを販売しようとした。その宣伝用チラシのなかで、写真とは何かを考えることにつながる記述をしている。

ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット(1800~1877)はカロタイプより編まれた最初の写真集『自然の鉛筆』の文章の中で、画家の手によるものではなく、自然が自発的に自ら複製するものであること、このことが強調されている。  

この二つの記述は、芸術家の手によるものではなく自発的再現という写真の定義を表現しているのである。





十九世紀の芸術や芸術理論を写真の発明の衝撃を無視して考えることは不可能である。

ダゲールはニエプスやトルボットと並んで写真の発明者として知られる人物で「ダゲレオタイプ」と名付けられた写真術は、アラゴーを通じてフランス政府に買い取らせるというプランが実現し、1839年1月に世界に向けて広く公開された。この直前、自らダゲレオタイプを販売しようと宣伝用チラシを記している。「ダゲレオタイプとは自然を描くのに役立つ道具ではなく、自然におのずからみずからを再現する力を与える化学的・物理学的技法なのです」芸術家の手を借りることなく自発的再現という中身である。

ダゲールと並ぶ写真の発明者として知られているトルボットは、ダゲールの写真の発表が公表された数日後に「フォトジェニック・ドローイング」に関連した製法について王立協会で報告を行う。その後1841年に「カロタイプ」を発明した、ダゲレオタイプと違いネガからポジを焼き付けることができ、紙焼き写真であるため書物への挿入が容易である。カロタイプより編まれた最初の写真集が『自然の鉛筆』である。冒頭につけられた文章の中で写真が、絵画のように画家の手によるものではなく、自然が自発的にみずからを複製するものであることが強調される。


この二つの記述は、芸術家の手によるものではなく自発的再現という写真の定義を表現しているのである。 


参考文献、編者、加藤哲弘『芸術理論古典文献アンソロジー 西洋篇』京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、出版局、芸術学舎、2014年、