ホメロス叙事詩の神々と英雄(ギリシアの思想)


ホメロスの叙事詩は人間と神々の交錯する世界である、英雄たちの背後に神々がいて操り糸を引いている。

人間の本性などを語るところで神々が語られる。

描かれる神々は、擬人化された最高の力と美を備えた不老不死の存在である。

神々とは異なり生命に限りのある人間の英雄、この偉大さと脆弱さが相互に反照しあう物語が叙事詩の核となっているのである。


ホメロスの叙事詩の神々と英雄


 ホメロスというひとりの詩人の手によるものか説が分かれている『イリアス』と『オデュセイア』の二大叙事詩の世界は、人間と神々の交錯する物語である。

英雄の背後に神々がいて操り糸を引く、これらに描かれる神々は人生の絵図面であり自然の力なのである。

『イリアス』にアガメムノンの弁明が描かれる。「かつて、アキレウスの女を横取りした日の私のふるまいは、私自身のふるまいではない。

あの日には、女神アーテー(狂気)により、私は狂気へと落とされていたのだ。人の身で、万事を支配する神に、どうして抗いえただろうか」

 この弁明により被害者であるアキレウスもアガメムノンが女神アーテーにとりつかれたことを認めている。

人間の本性、リビドー、潜在意識、コンプレックス、怨恨、憎悪、因果のもつれなどを語るところで神々を語るのである。

 ホメロスの世界の神々は貴族社会の英雄たちの投影である、英雄は神々に近い者として描写されている、しかし、神々が不老不死であるのに対し英雄の生命は有限である。

「憐れなる死すべき者ども、あるときは、野の果実をくらって、木の葉のように燃え輝き、あるときは、気力失せて朽ち果てる。」神のような輝きと闇のような死が背中あわせに張り付いた姿、生命の有限性は二度とこない今という性格を帯び厳粛になる人間の英雄、それが人間と神々との大きな相違である。


 ホメロスの叙事詩は人間と神々の交錯する世界である、不老不死である神々とは異なり有限な命の人間の英雄、この偉大さと脆弱さが相互に反照しあう物語が叙事詩の核となっている。

自然の力と人間の本性を擬人化した神々として、人間の生を普遍的に表現した現代でも有用な物語なのである。


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参考文献、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門 』、岩波ジュニア新書、2003年、