万有引力の法則で知られるアイザック・ニュートン(1642~1727)は、1704年に上梓された『光学』において、虹を七色からなるという音楽からの影響と考えられる光学論を論じた。
ドイツの国民的作家として有名なヨ―ハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749~1832)はニュートンの色彩理論を徹底的に批判した。
そのうえで色彩についての考えを、自身の自然研究の最高傑作と呼べる『色彩論』で展開したのである。
ゲーテはニュートンの科学的な考察とは相対的な人間の精神活動に関わる色彩論として問題提起をしたのである。
ニュートンとゲーテの色彩論
万有引力の法則のみではなく、ニュートンは光学や色彩学の分野で大きな貢献を残した科学者でもある。
この偉大な科学者はプリズムによる分光の実験を報告して、太陽光がじつは七つの異なる色のスペクトルからなることを証明してみせたのだ。
それと同じ原理を虹にもあてはめ『光学』のなかで虹の色は七色からなると論じた。この論考はニュートンが音楽などの影響によるところが大きいと考えられている。
現代では生理学的に解明された、色の三原色と光の三原色とを区別して考える三色説が定着しているのである。
ドイツの国民的作家として有名なゲーテは文筆活動と同じぐらい、それ以上に生涯を通じて自然研究に情熱を注いだ。
その最高傑作と呼べる著作が約二十年にわたる色彩研究の集大成『色彩論』である。
色彩についての理論の歴史を古代ギリシアより考察し、次いでニュートンの色彩理論を徹底的に批判した。そのうえで色彩について自らの考えを展開し論じている。
ゲーテの総合的な色彩研究は、ニュートンの分析的な『光学』とは相対的である。
ニュートンの色彩の問題は、光のスペクトル分解のそれに還元されるものであり、人間の介在する余地のない科学的な考察であるのに対し。
ゲーテは、色彩という文化・芸術という人間の精神活動に深くかかわる色彩論として、問題提起したのである。
参考文献:編者、加藤哲弘『芸術理論古典文献アンソロジー 西洋篇』京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、出版局、芸術学舎、2014年、