アウグスティヌスとザルリーノの音楽理論書 


代表的なラテン教父であるアウレリウス・アウグスティヌス(354~430)は『音楽論』において、音楽と美の快を出発点として音楽の痕跡をたどる、あらゆるリズムの源である神へと向かうことを論じた。

 十六世紀イタリアを代表する音楽評論家、作曲家であるジョセッフォ・ザルリーノ(1517~1590)は『ハルモニア教程』(1558年)において、古代ギリシアを遡る音楽知の仕組みを継承し、理論と実践の統合を目指した。

 ザルリーノの体系はのちに経験的な立場から批判され解体されるが、この二つの理論書は西洋音楽史上、西洋音楽を考察するうえで重要な音楽理論書なのである。





アウグスティヌスとザルリーノの音楽理論書


 アウグスティヌスの『音楽論』は、第一巻で「音楽とはよく拍子を整える知である」という定義を第二巻から第五巻は詩の韻律に関する検討をし、第六巻でリズムが重視され展開される。

物体的なものから非物体的なものへの意向が示され、音楽体験において人間の内面にみいだされる多層的なリズムを分析し、最上位に潜在的に魂に内包する「判断するリズム」を位置づけ、音楽の美と快を出発点として音楽の痕跡をたどる叙述はあらゆるリズムの源である神へと向かうのである。

 音楽すべてを体系的に論じようとした百科全書のようなザルリーノの『ハルモニア教程』は第一部と第二部では音楽の理論が、音楽の起源の確かさ賛美、学ぶ目的、有用性が論じられ。第三部と第四部では作曲技法や旋法論など実践に関わる事柄を取り上げられている。

第五章から第十章では音楽とは何かという問題を論じられピュタゴラス学派の音楽観が継承され音楽が三つに分類される。人間により歌い奏でられる音楽の「道具の音楽」に相当する思弁的音楽の伝統を尊重し感覚と理性のバランスに細心の注意を払われ、理論と実践との統合を目指したのである。


 ザルリーノの体系はのちに経験的な立場から批判され解体されるが。この二つの理論書は西洋音楽史上、西洋音楽を考察するうえで重要な音楽理論書なのである。


参考文献、編者、加藤哲弘『芸術理論古典文献アンソロジー 西洋篇』京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、出版局、芸術学舎、2014年、