リベラリズムと寛容の精神を基盤としたオランダ社会は、特異な列柱型社会が存在する。移民労働者ムスリムはこの柱状化の権利を推し進めた。このオランダ社会では二十一世紀初頭からムスリム移民に批判的な政党が、柱状化現象として発生し共生に疑問を投げかけているのである。
オランダでは、個人の生きる権利、信仰や思想信条、生き方についても他人や公権力が介入すべきではないという意識のリベラリズムが存在する。
この自由意思の尊重と他者からの干渉の排除を基調とする、オランダの基盤をなす思想から異なる宗教や考え方の柱を立てている。多文化主義は異文化の相互理解を想定せず、複数の文化を統合する方策である。オランダで言う寛容とは他者に同じ権利を認めるが、他者に関心や共感を持つ必要はないのだ。寛容が体現している教育の現場ではカトリックの学校があるようにムスリムにもイスラームの学校をもつことが認められている。この思想が拮抗した、一方で個人の自由意思を尊重し、他方で自由意思を他者にも承認するのがオランダ社会の実態である。
二十世紀後半、柱状化を権利として保証する意義が薄れるなか、政府はムスリム移民の権利を保障した。啓蒙主義や合理主義を発展や進化として疑わなかったヨーロッパ社会の中でムスリム移民はムスリムとして正しく生きる自由を選んだのである。
初頭のイスラーム批判は「自分たちが築き上げてきた寛容の精神がイスラームの偏狭と不寛容によって危機に瀕している」と表現される、さらに柱状化をいつまでも認めているとオランダ社会が成り立たないという批判が加わっているのだ。
リベラリズムと寛容の精神が拮抗した状態のオランダ社会は、一方で個人の自由意思を尊重し、他方で自由意思を他者に承認する。その特異な列柱型社会のなか移民労働者ムスリムは柱状化の権利を積極的に推し進めた。二十一世紀初頭からムスリム移民に対する批判が多文化主義に基づく柱状化の批判となり、移民排斥や反イスラームを主張する政党が柱状化現象として発生し共生に疑問を投げかけているのである。
参考文献、内藤正典『ヨーロッパとイスラーム-共生は可能か-』岩波書店、2004年