紀元前6世紀は人類史上重要な世紀である。
ヘブライの預言者たちが人類の自由な道義心への訴えという力の出現をしめしたのである。
ギリシア哲学者たちは、この宇宙および宇宙における人類の位置に関する明確な観念を探求しはじめたのだ。
ガウタマ仏陀がインドで、孔子と老子が中国で教えを説いていたのである。
アテネから大西洋にいたるまで人間の精神は躍動していたのである。
躍動する精神と思想の黎明期
紀元前6世紀のバビロン捕囚時代、ヘブライの預言者たちが民衆と永遠にして普遍的な正義の神との間の直接的な道徳的責任に関する新たな知識をつくり上げようとしていた。
ユダヤ思想中の神は世界中に遍在する正義の神である。他の民族による偶像を崇拝する神とは異なり、天にある彼らの神は新しい観念である。
アブラハムの神はユダヤ人を神の子としエルサレムを復興し世界の正義の首都とたらしめんとした。
ギリシアの探求者たちは世界における最初の英知愛好者、フィロソファーである。
ヘラクレイトスがエフェソスで物の本性に関する研究をし万物流転説を説くなど、ギリシア哲学者たちが、この宇宙および宇宙における人類の位置に関する明確な観念を探求しはじめる。
ガウタマ仏陀はインドのペナレスで一種の学校を設け人々をあつめた。
彼は自我に没却せず、自我に傾注し、そしてその自我を撃滅しようとし、魂の寂静すなわち最善なる涅槃に達する精妙で形而上学的な教義の仏教を説いたのだ。
インドにおいてヒンドゥー教が盛んになるとともに衰えたが、国境を越え中国、シャムやビルマ、日本においては今日でも仏教が支配的におこなわれているのである。
中国、春秋時代の激動のなか魯の思想家、儒家の祖となった孔子は家族道徳の実行を重視し為政者にも仁徳をもって統治することを求めたのだ。
また博愛主義や絶対平和を主張した老子、荘子などの道家は、あるがままの自然に宇宙の原理を求める無為自然を説いたのである。
紀元前6世紀は人類史上重要な世紀である。アテネから大西洋にいたるまで人間の精神は躍動していたのである。
参考文献:H.G.ウェルズ著 長谷部文雄、阿部知二訳『世界史外観、上・下』岩波新書、1966年