哲学の祖であるソクラテスは、宇宙の秩序を総括する善なる力について語らない自然学に絶望した。
人々との反駁的対話というロゴスの道から善の探求に向かうのだ、これは理論理性に対する実践理性の優位を主張する思考の転換であり、
自己の外なる自然界のみを眺めていた理性が向きを変え自己自身を眺めはじめ、人生の善悪が本来的に問題とされた革命的な思想なのである。
ソクラテス、思想の決定的な飛躍
ソクラテスはデルフォイの神託所より「ソクラテス以上の賢者はいない」という託宣をうけた。
無知なる者ソクラテスを「最高の賢者」とするこの矛盾的な意見に深い意味が隠されていると考え、この謎を解くことが神から課せられた天職であると理解し世に賢明な人々を歴訪し謎を解こうとした。
その結果、賢明と言われる人々が事実は賢くはないことを知り、神アポロンは「人間の知恵が無に等しい」「ソクラテスのように自分の無知を自覚することが人間の賢さである」事を教えたと理解する。
この対話活動の開始が彼の哲学の出発点である。
彼は宇宙の秩序を総括する善なる力について語らない自然学に絶望、人々との公共の場における公開の対話の反駁的対話というロゴスより「人間いかに生きるべきか」善と徳が何であるかを問う自己自身を眺める実践理性の優位を主張する革命的な思考の転換をした。
彼の結論は、人間の生は人間らしい生であり「善く生きる、正しく生きる」という人間であらしめている根本的な特徴の倫理性にある。
「いかなるしかたでも不正を犯してはならない」「たとえ不正を加えられても、不正の仕返しをしてはならない」という「最善のロゴス」に従い彼は死刑を受け入れたのである。
それまでの倫理では「敵を徹底的に害すること」は賛美された、復讐の正義観は現代でも広く人類の中で自明的な妥当性をもっている。
彼の行動と考えは伝統的な復讐の正義観に対しそれを超克する思想を伝え、それまでの思想の決定的な飛躍となるのだ。
ソクラテスの考えと行動は、最善のロゴスにより人生の善悪を本来的に問題とした、それまでの思想を転回させる革命的な思想なのである。
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参考文献、岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門 』、岩波ジュニア新書、2003年、