生命体の内部で生起する情報(情報)

 ITの発達速度の増加もあり文化的、物理的な周囲環境の変化は加速してゆく、ゆえに人間と情報処理機械の望ましい関係を確立するための分析と批判的な検討が必要になるのである。

1、生命体の内部で生起する情報

 基礎情報学においてもっとも原基的であり広義な情報が生命情報であり、この一部が社会情報に転化し、さらにその一部が機械情報に転化する。情報とは生命体の内部で生起し形をとるものであり、広義に生物や人間にとって意味(価値)をもたらすものである。

 生物がある選択行為をおこない結果的に生存に役立ったとき、意味(価値)が形成される、例えばあるものを食べて栄養素になれば、そこに意味(価値)が生まれる。このとき、生物個体の脳神経系のなかに記憶が刻まれたり作動様式が作られる、これが物理的な意味構造である。意味とは生物の試行錯誤的な行為の連鎖によって再帰的に形成される、そこで機能するのが生命情報だ。生物はこの生命情報を知覚器官によって外界から取り込むのではなく生命体の内部で生起し形をとるものである。

 この生命情報を人間の心(意識)が観察し言葉や画など人間社会で通用する記号を用いることで社会情報に転化する、人間社会で用いられるあらゆる情報は社会情報である。人間以外の生物の生物情報を人間が観察した記述も社会情報である、この社会情報である言語記号の意味内容の関係は相対的で流動的であるため、それを受容する側によって変容するということに注意が必要である。

 社会情報の記号と意味内容を切り離し記号だけを流通させ、時間空間にまたがる意味内容の伝達を実行しようという試みが現れる、人間が共通の客観世界の住人であり、それを記号により正しく記述した知識の一部が社会情報だという前提に立つと、この試みが正当化される、最狭義の情報である機械情報とは端的にこの記号そのもののことである。


 基礎情報学においてもっとも原基的であり広義な情報が生命情報であり、この一部が社会情報に転化し、さらにその一部が機械情報に転化する。情報とは生命体の内部で生起し形をとるものであり、広義に生物や人間にとって意味(価値)をもたらすものである。

2、マスメディアとインターネット

 現代の情報社会で現実世界の確固としたイメージをもつことは難しい。しかし疑似的に統一的な現実―像を与え、近代国家という想像の共同体形成と確立に寄与した単方向メディアであるマスメディア。他方、新たにオンライン共同体を形づくる双方向メディアであるインターネットは新しいタイプの現実―像をうみだした。このマスメディアとインターネットは疑似的ではあるが現実世界の統一的なイメージである現実―像をうむ契機を与えているのである。


 マスメディア・システムはマス・コミュニケーションを構成素とするHACSである。マス・コミュニケーションとは、新聞やテレビ、ラジオなどを通じて人々に供給される単方向的な非対話コミュニケーションのことであり、そこでは少数の職業的送信者から膨大な数の一般受信者へ一定の形式で機械情報が定期的に送られる。人々が興味を持つテーマについてのコミュニケーションを生成する必要から成果メディアは時事テーマであり、二値コードは人気・不人気、連辞用プラグラムは視聴率や発行部数などの受信反応指数であり、近代国家という想像の共同体形成と確立に寄与した。

 インターネットは双方向メディアと位置付けられ、IT業界では単方向メディアを放送、双方向メディアを通信と位置づけインターネットはウェブ上で自分の意見や主張、感想、作品などの自己表現を社会にひろく公表でき、新たなタイプの現実―像をうむ契機をあたえる。自由な分だけ制度に守られない流動性、細分化、匿名性が長所であり短所でもあるオンライン共同体を形づくる。インターネット・コミュニケーションを構成素とするHACSの成果メディアはテーマであり、二値コードは刺激的・非刺激的である。連辞用プログラムは評判であり、具体的にはアクセス数やリンク数が対応することになる。


 単方向メディアと双方向メディアであることが、大きな相違点であるマスメディアとインターネットは、疑似的ではあるが現実世界の統一的なイメージである現実―像をうむ契機を与えているのである。

3、新たな情報社会・情報環境による課題

 21世紀の情報社会は、ITとくにインターネットをベースに発展し人間と電子機械的なITは、今までにないほどに緊密につながり人間=機械複合系を形成する。ITの発達速度の増加もあり文化的、物理的な周囲環境の変化は加速してゆく、ゆえに人間と情報処理機械との望ましい関係を確立するための分析と批判的な検討が必要になるのである。


 人間の心的システム、社会組織システム、超―社会システムという三階層のダイナミックスを通じて、思想や価値観のプロパゲーションがなされ、その過程にITやインターネットが関わるため、ITやインターネットは単なる便利なツールや娯楽用ツールと見做すことはできない、それらは人間の心や社会組織を支える意味構造を変えていき、情報社会のありかたを根本的に変革する影響力をもつのだ。

 人間の行為をむやみにIT機器で代替えし、機械情報量を増大させることで社会活動と人間の創造力や環境適応力の低下を引き起こすことには注意が必要になる。機械情報は刺激であり、人間はそれを自己循環的に意味解釈して生命情報、社会情報を生成する。機械情報の量が過大になると人間は機械的な論理にのみ盲従してしまい社会的な巨大機構の社会的メガマシンを生み出す危険性があるために、この社会的メガマシンという存在を意識し、それを批判的に検討していくことが必要になる。また単純労働作業をはじめ人間行為のある種の部分を機械で代替えしつつ社会組織を組み立てていくのは悪いことではない、ただしその場合、学習機械を適切に応用するなど、社会組織システムの作動が硬直化しないような工夫が不可欠であり、多様に変化する周囲環境のもとで、情報社会を維持し発展させていくには、つねに生命情報にもとづく柔軟な意味伝播が起きるようなシステム的な仕組みが必要になるのである。


ITの発達速度の増加もあり文化的、物理的な周囲環境の変化は加速してゆく、ゆえに人間と情報処理機械の望ましい関係を確立するための分析と批判的な検討が必要になるのである。


参考文献:西垣通『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』高陵社書店、2012年